東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2244号 判決 1973年6月27日
昭和四七年(ネ)第二、一八二号事件控訴人
同年(ネ)第二、二四四号事件被控訴人(以下、第一審被告という。) 昭島市
右代表者市長 新藤元義
右訴訟代理人弁護士 平原昭亮
同 石川良雄
昭和四七年(ネ)第二、一八二号事件被控訴人
同年(ネ)第二、二四四号事件控訴人(以下、第一審原告という。) 清水とよ
<ほか二名>
以上三名訴訟代理人弁護士 重富義男
同 古山昭三郎
主文
1、第一審被告の本件控訴にもとづき、原判決主文第一項および第二項をつぎのとおり変更する。
(一) 第一審被告は第一審原告ら三名各自に対してそれぞれ金二、〇〇三、七九六円およびこれに対する昭和四三年三月一八日から右支払ずみまでの年五分の割合による金員を支払わなければならない。
(二) 第一審原告らのその余の請求を棄却する。
2、第一審原告らの本件控訴を棄却する。
3、訴訟費用は第一審および第二審を通じ、これを三分し、その二を第一審原告らの、その一を第一審被告の負担とする。
4、この判決は、主文第一項中の(一)および第三項に限り、仮りに執行することができる。
事実
(昭和四七年(ネ)第二、一八二号事件について当事者双方の求めた裁判)
控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す、被控訴人らの請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
(昭和四七年(ネ)第二、二四四号事件について当事者双方の求めた裁判)
控訴代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す、被控訴人は控訴人ら各自に対しそれぞれ金三、三三九、六六一円とこれに対する昭和四三年三月一八日から右支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
(右両事件についての当事者双方の主張および証拠の関係)≪省略≫
理由
第一、本件事故の発生、この事故についての第一審被告の賠償責任の存在、損害額、および第一審原告らの相続関係等の事実の確定、ならびに法律上の判断については、当裁判所も、つぎに一、および二、のとおり付加するほかは、原裁判所のそれと同じであるから、これらの点に関する原判決書理由らんの記載内容(原判決書九枚目表一行目より同一四枚目裏終から二行目まで)を引用する。
一、第一審被告は、清水清が六〇才の定年まで稼働し、その後さらに六五才まで稼働するということは不可能であり、また、この間に同人が第一審原告らの主張するような金額の収入を取得するというようなことはあり得ない、という。
しかし、清水清が六五才に達する以前において、死亡、疾病、その他の事由によって労働力が零となり、あるいは原判示以下に低下することが確実であることの確証のない限り(本件においてはそのような確証はない。)、引用にかかる原判決理由の説示するように、これを一般的統計資料にてらして同人の就労可能年数を定め、この間における同人の昇給分をもふくめて逸失利益を算定することは、現段階においては、やむを得ないところであって、あながち不合理とは思われない。
二、第一審原告ら、および第一審被告が当審で提出、援用した各証拠によっても右認定を左右することはできない。
第二、つぎに、第一審被告の抗弁について検討する。
≪証拠省略≫を合わせると本件事故現場を通ずる道路(昭島市道一三号線、全長約二、六三〇メートル)は、基そ六センチメートル、表層三センチメートルのいわゆる簡易舗装(耐久力一応五年)の道路で、昭和四二年七月ころには、タンクローリー車等の重量車両の交通量が多く、いきおい表層に亀裂が生じ、アスファルトがはがれたり、路面がくぼんだり、あるいは、また、路面が陥没して穴があくといったような破損個所が多発したので、第一審被告である昭島市職員がそのころからその破損状況を巡視してしばしばその補修整備にあたっていたこと、同道路は、本件事故当時には本件事故現場付近に前示二か所の破損個所があったほか、これらの破損個所から亡清水清の進行上一、〇〇〇メートル以上手前の昭島警察署方面にかけてその路面に点々と窪地、あるいは、陥没地部分があったこと、このため第一審被告は、当時、本件事故現場から亡清水清の進行上手前に当る昭島警察署寄りのガードレール近くに路面に凹凸のあることを表示した警戒標識を設置して人車の通行の安全に注意を与えていたことなどが認められ、これらの事実に、前記引用の原判決が認定する本件事故によって亡清水清の運転していた原動機付自転車によってひき起された現場付近における数ヶ所の擦過痕およびその長さならびに同人の当時同現場付近における運転通過の状況等を考慮に入れると、前記のように相当手前から破損個所が点々としてあった前記道路を原動機付自転車のような軽い小型の車両を運転して通過するに当っては、破損個所を安全に避けて通過できるか、これにはまっても転倒を避けられるような速度を保つなどの注意を用いるべきであると思われるのに、前記擦過痕は亡清水清の運転していた右自転車が横転したままで擦過したことによる痕であると認めるのほかないところ、それによれば、少くとも右注意を払っていたとはいえない程の速度で運転していたものと思われることを考慮すると、第一審被告は本件事故について国家賠償法第二条に定める賠償責任を免れないというべきであるが、他方、亡清水清については本件事故発生について相当程度の過失があったことをも認めるべきであり、それによる過失相殺の程度をしんしゃくした場合、第一審被告の負担すべき損害賠償額は、本件事故によって生じた損害額、すなわち、前記引用にかかる原判決認定の逸失利益および慰藉料額を通じてその一〇分の三と定めるのが相当であると認める。原審および当審にあらわれたその他の各証拠によっても右の認定を動かすことはできない。
第三、そうすると、結局、第一審被告は、第一審原告ら三名各自に対してそれぞれ本件損害金二、〇〇三、七九六円(ただし、円位以下切捨)、およびこれに対する本件事故発生の日の昭和四三年三月一八日から右支払ずみまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、第一審原告らの本訴請求は、右認定の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。
よって、原判決が右の限度をこえて第一審原告らの本訴請求を認容したのは不相当で、第一審被告の本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条によって第一審被告の敗訴部分を変更し、第一審原告らの本件控訴は理由がないから、同法第三八四条によってこれを棄却し、訴訟費用の負担について同法第九六条および第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 畔上英治 裁判官 唐松寛 兼子徹夫)